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大阪家庭裁判所 昭和51年(家)2460号 審判 1979年2月01日

本籍東京都

住所大阪府

申立人 山本美子

国籍 アメリカ合衆国カリフォルニア州

住所 アメリカ合衆国カリフォルニア州

相手方 山本英男

主文

申立人の本件各申立をいずれも却下する。

理由

第一本件各申立の趣旨と理由

一  申立の趣旨

(一)  相手方は申立人に対し夫婦関係を維持するための生活費として毎月七五、〇〇〇円を支払うことを求める。

(二)  相手方に対し申立人と同居することを求める。

二  申立の理由

(一)  申立人と相手方は昭和三二年一一月一日婚姻届出により夫婦となつたものであるが、現在別居中である。相手方は申立人に対し昭和四九年九月までは毎月約六〇、〇〇〇万円宛生活費を送金していたが、それ以降送金が途絶えて、何の消息もない。そこで上記申立の趣旨の(一)のとおり請求する。

(二)  また、相手方は昭和四〇年一月一日以来申立人と別居しているが、これは夫である相手方が妻である申立人を悪意で遺棄したものであるから、上記申立の趣旨(二)のとおり相手方に対し申立人と同居することを求める。

第二当事者間の婚姻関係の経緯と実情

一  申立人と相手方は昭和三二年一一月一日婚姻届出をなした夫婦であるが、実際には昭和三〇年一月頃から東京都渋谷区○○のアパートで同棲して事実上の夫婦関係に入り、同年三月二一日にはすでに長女友子が出生し、その後本件当事者間の東京家庭裁判所昭和三〇年(家イ)第一三七七号離別等調停事件で、同年七月四日に「申立人と相手方とは婚姻し、速にその届出をすること、相手方は上記長女友子を認知し、速にその届出をすること」という調停が成立し、その結果昭和三二年一一月一日付で婚姻届出と長女友子の認知届出が同時になされるに至つたものである。

二  申立人と相手方が初めて知り会つたのは、昭和二八年二月頃で、当時申立人は先夫と死別した未亡人であり、また相手方は○○貿易株式会社(その後合併により××株式会社となり、更に現在の○×株式会社となる。以下単に○×という。)に勤務する会社員であつた。申立人は大正二年三月二日生で、大正一五年一一月一日生の相手方より一三年も年長ではあつたが、個人的な交際を続けるうちに性関係をもつようになり、昭和二九年四月頃申立人が妊娠し、その間紆余曲折はあつたものの、結局上記のように事実上の夫婦生活に入り、更に婚姻届出により正式の夫婦となつたものである。

昭和三三年三月から昭和三六年一〇月まで、相手方は○×のカイロ駐在員として単身海外勤務についたため、その間留守宅に残つた申立人とは別居生活を送つたが、相手方は帰国後大阪本社鉄鋼貿易部へ転勤となり、同会社の社宅になつていた大阪府○○市××公団住宅に家族とともに転居し、同所で共同生活をすることになつた。

三  ところが相手方は、昭和三七年一〇月、サンフランシスコ駐在員として再び海外勤務に就くことになり、単身で赴任したが、相手方としてはいずれ申立人ら家族も呼び寄せることにしていたものの、後述のような申立人の性格上の難点から、海外勤務の商社員の妻としての適格性に不安をもち、申立人を呼び寄せることを躊躇していたところ、あくまでアメリカへ渡航し、相手方と同居するつもりであつた申立人は、相手方のそのような態度に納得せず、○×のサンフランシスコ事務所長や本社の関係部課長に手紙を出したり、あるいは直接本社に出向いたりして会社にまで苦情を申入れるような行動に出たため、○×の相手方に対し家事紛争処理のための帰国を命じ、昭和三九年一一月相手方は帰国して東京に着いた。しかし、そのときすでに申立人との婚姻生活の継続を断念していた相手方は、帰国したものの○○市の留守宅の申立人のもとへは帰らず、そのまま○×東京支社の鉄鋼貿易本部長付として東京に留まり、東京へ出向いてきた申立人と同支社で同支社人事部長小金政治を交えて離婚のことなど話し合つたが結局物別れに終つた。そして、相手方は同年一二月一日当裁判所へ申立人を相手どつて離婚調停申立(当裁判所昭和三九年(家イ)第二四五一号離婚調停事件)をなしたが、同調停事件は昭和四〇年三月二五日調停不成立で終了した。

また、その間に、上述のように申立人がサンフランシスコへの家族渡航問題で○×のとつた措置を不服として、関係部課長をはじめ社長にまで手紙で苦情を申立てたりしたため、相手方は会社での立場に窺し、それ以上勤務を続けることができないような状況になり、遂に昭和四〇年一月二五日付で○×を退職するに至つた。

四  上記離婚調停不成立終了後、相手方は更に同年七月一九日付で大阪地方裁判所に対し申立人を相手どつて離婚の訴を提起したが、同訴訟も昭和四一年四月相手方の取下により終了した。また、その後申立人から当裁判所に対し同年六月八日付で相手方に対する婚姻費用分担調停の申立(当裁判所昭和四一年(家イ)第一四四九号婚姻費用分担調停事件)がなされたが、相手方は○×退社後も申立人のもとへは帰らず、東京の自分の実家で生活し、一時他の会社に再就職もしたものの、結局生活に行きづまり、同年一〇月にボクシング試合のプロモーター関係の仕事を得て渡米し、申立人に対してはそのまま消息を絶つてしまつたため、上記調停事件は同年一一月一五日相手方所在不明の理由で取下に終つている。

五  相手方は上記のように渡米した後、現在の勤務先であるカリフォルニア州○○市の××会社に就職し、それ以来同市に在住して今日に至つており、昭和四二年八月にはアメリカ合衆国における永住の許可を得、更に昭和四九年五月七日サンフランシスコ地方裁判所において帰化申請が認容されてアメリカ国籍を取得し、それに伴い日本国籍を喪失した。

六  一方、申立人の方は、相手方の○×退社に伴い前記社宅を明渡さなければならないのに、そのまま長女友子と二人で居住を続け、○×からの明渡要求にも応じなかつたため、○×から社宅明渡請求の訴訟を提起された。そして、同訴訟で和解が成立し、猶予期限を付して明渡義務が確定したが、申立人はその期限徒過後もなお明渡を拒んで社宅に居坐り続けたため、遂に昭和四二年一一月三〇日社宅明渡の強制執行を受け、社宅から強制的に退去させられて漸く現住居に移つたもので、それ以来同住居において長女友子と二人で生活するようになつた。

七  当事者間の婚姻生活は以上のような経過を辿つてきたものであり、申立人と相手方が夫婦として共に暮したのは結局昭和三七年九月相手方がサンフランシスコ駐在員として単身赴任するまでであつて、その後両者は一度も婚姻共同生活を再開することなく別居状態を続けてきたもので、殊に相手方が○×退社後再度渡米してそのまま同地で生活するようになつてからは全く消息不明であつたが、申立人の別件訴訟事件の訴訟代理人の調査によつて漸くその所在が判明したので、昭和四三年九月、申立人は相手方、○×および国を相手どつて、前記社宅明渡強制執行の際の不法行為によつて損害を受けたとして慰謝料等請求の訴訟を東京地方裁判所に提起し(東京地方裁判所昭和四三年(ワ)第一〇四六九号慰謝料等請求訴訟事件)、更に昭和四四年一月二八日当裁判所に相手方に対する婚姻費用分担審判の申立(当裁判所同年(家)第五九八号婚姻費用分担申立審判事件)をなした。そこで当裁判所において調査を開始し、その過程で当裁判所家庭裁判所調査官が相手方と連絡をとりながら働きかけた結果、相手方は、同年一二月から、申立人に対し、申立人や長女友子の生活費を送金してくるようになつた。すると申立人は、昭和四五年七月一七日、更に当裁判所に相手方に対する同居請求の調停申立(当裁判所同年(家イ)第二一五九号夫婦同居協力扶助申立調停事件)をなし、両事件の手続がすすめられることになつたが、相手方はアメリカ在住中のため当裁判所に出頭せず、また一応その後送金が続けられたこともあつて、両事件とも昭和四七年九月六日申立人において取下をなした。

相手方からの送金は昭和四八年三月分までは続けられたが、同年四月分の送金がなかつたところから、申立人はすぐにまた同月二八日裁判所に婚姻費用分担の調停申立(当裁判所同年(家イ)第一二六二号婚姻費用分担申立調停事件)をなした。しかし、同年五月から再び送金が来るようになつたので、同事件は同年七月一〇日申立人において取下をなした。そして、その後も昭和四九年九月まで相手方の送金は続けられていたが、それ以降相手方が送金を打切つたため、申立人はまた同年一一月一一日当裁判所に婚姻費用分担の調停申立(当裁判所同年(家イ)第三六九九号婚姻費用分担申立調停事件)をなした。しかし、相手方は調停に出席せず、かつ送金再開にも応じなかつたので、同調停事件は昭和五一年九月一七日調停不成立となり本件婚姻費用分担審判事件に移行したものである。

八  申立人と相手方との間の長女友子は、昭和五三年三月○○女子大学を卒業したが、同年四月初旬、突然東京都○○区××町○丁目×番地の相手方の実家すなわち現在相手方の母である申立外山本テルが一人暮しをしている家に現れ、「東京に就職したので、これからこの家に住んで通勤する。」と一方的に言つて同家に入りこみ、そのまま現在も同家に居住を続けている。同女がこのような行動に出たのは、申立人としては、友子の大学卒業に際し、子として当然父である相手方のもとへ行つて同居する権利があると考え、先ず相手方に対し、アメリカの父のもとへ行きたい旨の手紙を出したが返事がないので、更に相手方に対し、「アメリカに行けないのなら東京の相手方の実家に住んで東京で就職したい。返事がなければ承知したものとして東京の家へ行く。」と手紙を送つたところ、これにも返事が来ないので、その手紙で予告したとおり友子が祖母山本テル方へ行つて住むことを相手方が承諾したものとみなし、友子にとつては祖母の家であり、またその家も相手方の所有家屋であるから、友子がそこに住むのは当り前であり、また山本テルに対しては相手方の方からその旨連絡するのが当然である、従つて申立人あるいは友子の方から山本テルにあらかじめ連絡する必要はない、という考えで、事前に山本テルに何の連絡もせず、先方の都合もきかずに、いきなり友子を上述のように行かせた、というものである。

九  このように友子が上京したため、申立人だけが肩書住居に残り、現在単身で生活しているものであるが、その後同年八月二一日に当裁判所に対し本件同居請求の審判の申立をなしたため、前述の婚姻費用分担申立審判と併合して審判がなされることになつたものである。

第三国際裁判管轄権および準拠法

一  申立人と相手方は、もとは日本人同士の夫婦であり、婚姻当時はともに日本国籍を有し、かつ日本に居住するものであつたが、その後上述のような経緯で相手方がアメリカ国籍を取得して日本国籍を喪失したため、現在は妻である申立人が日本国籍、夫である相手方がアメリカ国籍という異国籍の夫婦となつたものであり、本件は日本に居住する日本国籍の申立人がアメリカ合衆国カリフォルニア州に居住するアメリカ国籍の相手方に対し別居中の婚姻費用分担金の支払と夫婦としての同居を請求するもので、いわゆる渉外事件である。従つて、本件については国際裁判管轄権と国際私法上の準拠法について検討することが必要である。

二  先づ、このような異国籍、異住所の夫婦の場合、日本国とアメリカ合衆国カリフォルニア州のいずれがその裁判管轄権を有するかの国際裁判管轄の点は、本件のような夫婦間の扶養あるいは同居義務の問題に関しては、当事者の国籍および住所のいずれを基準としても、扶養などの義務を課せられる者、すなわち申立を受ける相手方の本国もしくは住所地で裁判を行うことが公平の理念に合致するものというべきであるから、原則として相手方の本国もしくは住所地国が裁判管轄権を有するものと解すべきである。そうすると、本件の場合、国籍と住所地のいずれを基準としても相手方の本国および住所地であるアメリカ合衆国カリフォルニア州の裁判所の管轄に属することになるが、本件のような別居中の夫婦で、しかも一方が外国に居住する場合、常に相手方の本国もしくは住所地国の裁判所に申立をしなければならないものとすると、事実上申立人にとつて請求の途が閉ざされることとなつて著しく不利な結果になる。そこで申立人の利益保護についても考慮する必要があるから、夫婦が最後に婚姻共同生活をしていた住所地から相手方の方が去つて別居し、申立人がなおもとの婚姻住所地にそのまま引続きとどまつている場合には、そのもとの婚姻住所地国にも裁判管轄権を認めるのが妥当と考えられる。本件の場合、申立人と相手方が夫婦として最後に婚姻共同生活をしていたのは大阪府○○市であり、申立人はそのまま引続き同地に居住しているものであるから、もとの婚姻住所地国であるわが国にも例外的に裁判管轄権を認めるべき場合にあたるので、本件についてはわが国の裁判所も管轄権を有するものと認めるべきである。

なお、わが国においては、裁判所法第三一条の三によりこの種事件は家庭裁判所の権限に属するものであり、家事審判規則第四五条、第五一条、民事訴訟法第二条第二項により、相手方の日本における最後の住所地を管轄する家庭裁判所がわが国における国内管轄権を有することになるが、前述の経緯にみられるように相手方の日本における最後の住所地は東京都であつたと認められるので、東京家庭裁判所が本来の管轄裁判所となるべきところであるけれども、申立人が当裁判所管轄区域内に居住しており、また前述のように、当裁判所にこれまで本件当事者の一連の調停あるいは審判の関連事件が係属してきた経過に照し、本件もまた当裁判所において審判をなすのが相当と認められるので、家事審判規則第四条第一項但書により、当裁判所で処理することとする。

三  次に本件に関する準拠法の決定についてであるが、本件申立のうち婚姻費用分担金請求は、別居中の妻から夫に対し生活費の支払を求めるものであり、このような婚姻生活費用の出損は、婚姻費用分担の問題とすれば夫婦財産制として法例第一五条により婚姻当時における夫の本国法が準拠法となるのに対し、夫婦間の扶養(扶助)の問題とすれば婚姻の効力の一つとして法例第一四条により夫の現在の本国法が準拠法となるので、いずれによつて準拠法を定めるかが問題となる。日本民法に関しては婚姻費用分担義務と夫婦の扶助義務とは本質上同一のものとする考え方が多いが、異なる法制上では、たとえば日本民法の旧親族篇の如く夫婦扶養とは別個に婚姻費用負担者を定めるものもあり、一般的にいえば婚姻費用負担の問題は夫婦財産制の形態との関係で婚姻共同生活費用を夫婦のいずれが負担すべきかを定める点に主眼があり、それが夫婦の双方の分担とされる場合でもその点は変りはなく、各自がともに自己の生活を保持するに足る資力を有する有産者同士の夫婦間では扶養としての意味が全くないことからも明らかなように、本来夫婦間の扶養の問題とは本質を異にするもので、それはあくまで夫婦財産制の一部をなすところの婚姻費用負担の問題として、夫婦扶養あるいは扶助義務とは区別されなければならない。そして、夫婦財産制の中で婚姻費用の負担者が定まつている場合には、その負担者が負担義務を履行している限り扶養の問題を生ずる余地はなく、夫婦扶養義務は現実化するに至らないのであるから、先ず、法例第一五条の夫婦財産制の準拠法によつて婚姻費用負担者を定めるべきであり、もしその準拠法上婚姻費用負担に関する規定がないか、あるいはその準拠法による婚姻費用負担者が負担義務を履行することができない場合で、生活能力のない配偶者の一方が他方に対し生活費の供給を求めるものであれば、それは扶養の問題として、法例第一四条により準拠法を定めるべきである。

そこで、先ず本件においては、法例第一五条により夫婦財産制の準拠法は婚姻当時における夫の本国法である日本民法になり、同民法第七六〇条が婚姻費用の夫婦分担を定めているが、同条は具体的な負担者を定めることはせず、抽象的に、各自の能力に応じて分担すべき旨を定めているに過ぎない。そうすると、夫婦が双方ともそれぞれ自己の生活を保持するに足る資力を有する有産者同士の夫婦については本来の婚姻費用分担の問題であるけれども、夫婦の一方が無資力で婚姻費用分担能力がなく、他方配偶者に婚姻費用分担を求めるものであれば、それは実質的には扶養(扶助)請求と見なければならない。従つて本件の場合も、婚姻費用分担請求の形で申立がなされてはいるが、実質は夫に対する扶養の請求にほかならないから、あらためて法例第一四条により扶養としての準拠法を定めることが必要になり、夫の現在の本国法であるカリフォルニア州民法がその準拠法となる。

また、本件婚姻費用分担請求の趣旨には、申立人自身の生活費だけではなく、申立人と同居し、申立人が実際に監護養育してきた長女友子の生活費も含まれているものと解せられるが、その点は親子間の扶養として親子間の法律関係の問題であるから、法例第二〇条により父の本国法であるカリフォルニア州民法がその準拠法となる。

更に、申立人から相手方に対する同居請求の点については、婚姻の効力の問題として、法例第一四条により、やはり夫の本国法である同民法が準拠法となる。

以上の理由により、結局本件各申立については、いずれも相手方の本国法であるカリフォルニア州民法が準拠法として適用されることになるものである。

第四カリフォルニア州民法における夫婦同居義務および扶養義務

一  夫婦同居義務

カリフォルニア州民法には、夫婦同居義務についての直接の規定はないが、婚姻の性質および成立要件に関する同法第四一〇〇条の関連判例では、婚姻は一つの家庭として同居すること(a home and mutual cohabitation)を必須の条件とするものであり、各自相手方に対する交際(society)の権利を有し、かつ共同生活をなすべき義務を負うもの、とされており、また夫婦は同居することにより婚姻から生ずる一切の権利義務を相互に引受けることになる、とされていることから窺われるように、同民法においても、夫婦は互いに相手と同居すべき義務を負うことは明らかであり、それはまた婚姻の性質からいつても当然のことと考えられる。従つて、婚姻関係が存続している限り夫婦の一方は他方に対し自己と同居すべきことを請求する権利を有するものということができる。

しかし、同民法は、和合不可能な相違により婚姻が破綻し、回復の見込のないこと(Irreconcilable differences, which have caused the irremediable breakdown of the marriage)をもつて離婚原因となし裁判所は、この事由によりもはや婚姻継続の見込がなく、婚姻を解消すべきであることが明らかであると認めたときは、離婚または法定別居の判決をすることができる(同法第四五〇六条、第四五〇七条)としており、判例も、婚姻関係が破綻し、家族的結合が失われて家族生活の目的が達せられないような状態に至つた場合には、公序の面からも婚姻の解消を認めるべきである、としており、これらの規定および関連判例の趣旨を綜合して考えると、たとえ形式上はなお婚姻関係にある夫婦であつても、すでに婚姻が実質的に破綻し、回復不可能な程度に達していて、正常な婚姻共同生活が全く期待できないまでに至つたときは、そのような場合にもあくまで夫婦に同居を強いることは却つて不合理であるから許されず、従つて、夫婦の一方は他方に対して同居を求めることはできないものと解すべきである。

二  夫婦の扶養義務

カリフォルニア州民法では、夫婦は互いに扶養の義務を負う(同法第二四二条、第五一〇〇条、一九七六年改正前はそのほかに第二四三条)とされ、一九七六年改正前は妻の夫に対する扶養義務が限定的である(改正前の第二四三条、第五一三二条)のに対し、夫は夫婦が合意で別居している場合を除き、全面的に妻を扶養すべき義務があるものとされていた(改正前の第五一三一条)が、一九七六年の改正で妻の夫に対する扶養義務も配偶者間の扶養義務として統一され(同法第五一三一条、第五一三二条)夫と妻とで差異がなくなつた。しかし、夫の妻に対する扶養義務に関しては、その改正の前後で変化はないものと考えられる。

同法第五一三一条は、夫婦が合意によつて別居しているときは、特約によつて扶養の権利が留保されていない限り、夫婦の一方は他方に対し扶養の責任を負わない、とし、また、同法第五一三二条は夫婦が共同生活をしている間は、共通財産あるいは準共通財産がない場合には、夫婦の一方は、他方を、自己の特有財産をもつて扶養しなければならない、としているが、その関連判例では、夫婦が別居している場合も、妻が夫から扶養を受ける権利は、婚姻関係から生ずるものとして、婚姻関係が存続している限り継続するものであり、夫婦が別居していることそれ自体は扶養の権利を放棄することにはならず、また妻の正当な理由による別居は扶養の権利を失わしめない、とされているので、夫婦が別居している場合でも原則として夫婦間の扶養義務には変りはないものと考えられる。しかしまた一方では、同法第五一〇〇条、五一三一条の関連判例には、妻が夫の意思に反し、かつ夫の責に帰すべき事由がないのに、夫のもとを去つて別居したり、あるいは正当な理由なしに夫を遺棄した場合、妻は夫に対し扶養を求める権利を失う、とするもの、あるいは、合意なしに夫のもとを去つて別居した妻は、その別居が夫の不行跡によるものでない限り、夫に対して扶養を求める権利はない、とするものなどがあり「これらの判例の趣旨を綜合して考えれば、同民法において、夫婦が別居している場合の夫婦間の扶養については、合意による別居でない限り、原則として夫婦の一方は他方に対し扶養を求める権利を失わないけれども、一方の配偶者の側に帰すべき事由があり、そのために別居せざるを得なくなつたような場合には、他方の配偶者はこれに対する扶養義務を免れるものと解するのが相当である。

三  親の未成年の子に対する扶養義務

カリフォルニア州民法第一九六条によると、子に対して監護(custody)の権利を有する父母は、その子に対し、その子の境遇に応じて適当な扶養と教育を与えなければならず、もしその父が与える扶養と教育が不十分なときは、母が可能な限度でそれを補わなければならない、とされ、また同法第二四二条は、人はすべて自己の配偶者と子を扶養すべきであり、同条によつて課せられる義務は(子の扶養については)同法第一九六条の規定に従うものと定めている。そして、同法第一九七条によると、未婚の未成年者に対しては、その母と同法第七〇〇四条の(a)項にあたる父(自然的父性の推定を受ける父)とが平等に監護権を有するものとされているので、相手方も長女友子に対し父として第一次的に扶養義務を負うことは明らかである。もつとも、同法第一九七条後段は、更に、もし父母のいずれかが死亡し、あるいは子の監護が不能か、それを拒否した場合、もしくはその家族を遺棄した場合には、父母の他の一方が監護権を有する、としているので、本件のように父である相手方が妻子を日本に残したまま、海外に去つて全く交流のない断絶状態にある場合には、同条にいう子の監護が不可能なときにあたり、母である申立人のみが監護権を有することになるとも考えられる。そして上記同法第一九六条の規定および関連判例によると、未成年の子に対する扶養義務は子に対する監護権を有し、かつ現実にその子を養育している父母に限定されるものであり、監護権や現実の養育を剥奪された父母は扶養義務を負担するものではないとしており、扶養義務が監護権に結びついた形になつていて、その監護権を有する者のみが扶養義務を負うことを原則とするもののように解せられるので、上述のように相手方が監護権を失うものとすれば、それに伴つて扶養義務の負担を免れることになるようにも思われるが、一方では自己の責に帰すべき事由で子の監護権を失つた父は、他に生活を維持する方法のない未成年者に対する扶養義務を免れることはできない、とし、あるいは裁判所の命令により、または父母の合意により、子が母の監護下にあるときは、それだけの理由で当然にその父が扶養義務を免れることにはならない、とする若干の判例もあり、これらの判例やそのほかの関係判例の趣旨を綜合して考えると、本件のように父母が別居していることにより父が監護権を失い、母のみが監護権を有することになつたとしても、それだけで当然に父が子に対し扶養の義務を免れることにはならず、母が子を扶養するに足る能力のないときには父もまた扶養すべき義務があるものと認められる。なお、同法第二四一条によると、同法のchild の定義として、「一八歳未満の子女および年令にかかわらず自ら生活の資を得るための能力と資産を有しない子女」(一九七一年の改正により年令の点は従来の二一歳から一八歳に引下げられた)とされているので、未成年の子に対する父母の扶養義務は一応一八歳に達した時点で、特にそれ以降も扶養を必要とする事情のない限り終了することになるものと考えられる。

以上のように、原則的には相手方は長女友子に対する父としての扶養義務を負うものと認むべきであるが、その扶養料の具体的な金額を定めるについては、同法第二四六条の(a)ないし(h)の各号掲記のとおり各当事者の資産、収入、生活水準、年令、健康状態、扶養権利者が適当な教育、訓練および職業を得るまでに必要な期間、その他正義と公平の見地から適当と認められる一切の事情を考慮すべきであり、また判例によれば未成年の子に対する扶養は、単に必要最小限度の生活費を供給するだけでは足りず、父母の経済的能力や社会的地位相応の生活様式と条件を充たすような生活を可能とする程度のものであることを要するが、結局は裁判所が、これらの諸事情を綜合勘案して、適正な自由裁量によつて決定すべきものとされている。

第五婚姻破綻の原因と責任

一  前述の婚姻生活の経緯と実情によつて明らかなように、当事者間の婚姻関係は、実質的には昭和三九年一一月相手方がサンフランシスコから社命で帰国したときにすでに破綻状態にあり、それ以来夫婦の間は完全に冷却しきつた間柄となつて、意思の疎通も絶え、別居したまま一度も婚姻共同生活を再開することもなく現在に至つているもので、そのような状態はすでに一四年もの長年月に及んでおり、しかも夫である相手方は国外に去つて今では国籍まで異にし、双方はもはやその生活状況においても、心情においても、あまりにも遠く隔つてしまつており、今なお戸籍上は夫婦であるとはいえ、それは全くの形骸に過ぎず、夫婦としての実質は完全に失われ、かつ回復の可能性は絶無である。

二  そこで、前述のカリフォルニア州民法における夫婦間の同居義務および扶養義務に照して、本件申立の当否を判断するためには、申立人と相手方がこのように別居することになつた原因とその責任の所在を考えなければならない。相手方がサンフランシスコ駐在員として赴任している間の別居は、夫婦が経済的もしくは社会的理由により一時的に異なる場所で生活している場合であつて、それは同法でいうところの別居にはあたらないから、別居の開始は昭和三九年一一月に相手方がサンフランシスコから帰国したときになり、その別居はもちろん合意によるものではないし、結局そのときに婚姻破綻が決定的となつたものであるから、別居の原因と責任は、換言すれば婚姻破綻の原因とその有責性の問題になる。そして、前述のようなこれまでの婚姻生活の経緯、その間の様々な出来事や葛藤を通して認められるように、その破綻の原因は結局のところ両者の性格および気質の不一致ならびに物事に対する考え方の相違ということになると思われるが、それについては特に申立人の性格上の欠点がその主要な原因をなしたものといわざるを得ない。本件夫婦の婚姻は、前述の経緯からも認められるように、そもそもの出合いから正式婚姻に至るまでの間においても何かと紛争があり、また両者の年令差などもあつて、その当初よりすでに波乱が多く、その後の共同生活も決して順調に推移したものでなかつたばかりか、正規の婚姻共同生活に入つてからも、性格や生活態度の相違からとかく円満を欠き葛藤を生ずることが多かつたようである。相手方によれば、申立人は主婦として家政のやり方が極めて悪く、家事に無関心で投げやりであり、しかもわがままで気が強く、自己本位で、自分の考えはあくまで通さなくては気がすまない、という性格の持主であつたということであるが、申立人の性格あるいは気質に多分そのような傾向があつたことは次のような事実からも裏付けられるところである。たとえば、サンフランシスコへの家族渡航問題で、相手方の態度に不服であるからといって、直接相手方の勤務会社に出向いて相手方の上司に面談の上、会社が許可しなければ自費渡航も辞さないとあくまで自己の希望を通そうとしたり、あるいはサンフランシスコ事務所長や大阪本社の関係部課長、更には社長自身にまで手紙を出して不満や苦情を訴えたりしている態度、またその前のカイロ駐在員として赴任したときにも、留守宅渡しになる給与について申立人と相手方の両親との間の分配方法について紛争があつたので、相手方は自分の上司である鉄鋼貿易部長立山康夫にその処置を一任し、同人がその配分を決めて渡そうとしたところ、申立人はあくまで全額受取を主張して譲らず、同部長の配分方法を拒否し、結局申立人が全額を受領することになつたこと、およびその際に申立人が同部長や会社に対してとつた言動、更には、社宅明渡の問題で、あくまで明渡を拒否し、訴訟になつて和解により明渡義務を承諾しながら、なおも頑強に明渡に応ぜず、遂に強制執行を受けるに至つた経緯とその間の申立人の言動など、これらの出来事を通じて窺われるように、申立人は自分の思うようにならないと一方的に相手を非難攻撃し、自己の正当性を主張するばかりで、自分の要求のみに固執し、相手や自分の周囲の者に対する配慮に欠け、他人と協調しようとする柔軟さのない硬直した性格や気質が顕著である。また、本件審判事件や、これまで本件に発行して当裁判所で行われた各調停手続の過程でも、自分の思うように事件が進行しないとしきりに当裁判所宛に書簡で苦情を訴えたり、あるいは一方的に自分の要求をくり返し、相手方を非難することのみに終始し、自らも問題解決のために反省し、努力しようとする態度が全く見られない。また、最近では、前述のような長女友子が上京就職して相手方の母山本テル方に住みこむに至つた経緯およびそれについての申立人の考え方を見ても、相手方に対する長い年月の対立反目の気もちがあるためもあろうが、それにしてもあまりにも独善的、一方的であり、常識的な見方からすれば理解し難いところがあるといわなければならない。

このような申立人の性格および気質から考えると、相手方がサンフランシスコへ申立人を帯同することを躊躇したのも無理からぬところと肯けるし、更に、そのあと申立人がとつた前述のような一連の言動、就中相手方の勤務する会社の関連部課長や社長にまで直接苦情申立的な行動に出たことは、家庭内の紛争を職場にまで持ちこまれ、職場の上司にまで迷惑を及ぼす結果となり、そのため相手方の会社における立場を失わせ、家庭内の紛争処理のために帰国を命ぜられるという海外駐在の商社員として甚だ不名誉な事態に至り、遂には会社を退職せざるを得ないところまで追いこむことになつたもので、相手方が、これによつて申立人との婚姻の継続を断念するに至つた心情も理解できるところである。申立人としても、一般の職場というものの状況や雰囲気からいつて、自分のそのような言動が相手方の会社における立場にどのような影響を与えるかについて、もつと考慮を払うべきであり、そのような行動に出る前に、夫である相手方と辛抱強く話し合いを重ね、意思の疎通をはかり、たとえ自分の希望がただちにかなえられなくても、更に時期を待つなり、あるいは相手方に自分の真情を訴えるために自らも改めるべき点は改めるなどして努力するとか、ほかになすべき方法はあつた筈であり、そのようなところに思いを至さず、短絡的で思慮に欠けた行動に出たところに申立人の性格的な欠陥が現われており、結局それが婚姻破綻を決定的にし、回腹不可能な状態に至らしめたものと認めざるを得ない。

三  これに対し、相手方についてはこれまでの婚姻生活において格別婚姻破綻の原因を作るような行状あるいは性行上非難されるべき問題は見あたらないし、申立人からもそのような事実の主張はなされていない。むしろ勤務先においては有能な商社員として活動していた状況が窺われるし、また、これまで当裁判所で行われた調停あるいは審判手続の過程で相手方が示した態度から判断する限り、婚姻関係がこのように破綻状態にありながら、相当の努力をしてアメリカから送金を続けるなど、当裁判所調査官の働きかけがあつたにせよ、申立人や長女友子に対し、夫として、あるいは父として、かなりの程度まで誠意ある態度を示してきたことが認められる。すなわち、昭和四四年(家)第五九八号婚姻費用分担審判事件において、はじめて当裁判所が家庭裁判所調査官によつて相手方と接触をもつようになり、同調査官の勧告に応じて申立人への送金を開始したが、それに先立ち、同年一二月長女友子からの手紙に心を動かされ、子供への愛情からとりあえず四万円を送金したのをはじめ、昭和四五年一月から昭和四七年二月までは一ヵ月一五〇ドル(邦貨換算五四、八〇〇円)宛、同年三月から同年七月までは一ヵ月一七五ドル(同六一、二五〇円)宛、同年八月から昭和四八年三月までは一ヵ月二二五ドル(同六七、五〇〇円)宛を、それぞれ送金し、その後一時中断したが同年五~六月頃から再開し、各月の金額には多少の変動はあつたものの、そのまま昭和四九年九月まで続けられており、またその間毎月の送金以外にも同女の高校入学時に学費や制服代として四〇〇ドル(一四五、〇〇〇円)、昭和四五年末には同女のオーバー、昭和四六年八月には同女の学費、夏制服やレインコートの費用として一〇〇、〇〇〇円、同年末には同女のスキー旅行の費用約六〇、〇〇〇円、昭和四七年三月には授業料として六二ドル(一八、六六二円)、同年四月には学費として二八八ドル(八六、四〇〇円)など、申立人や長女友子の要求に応じてその都度金品を送つている。このような事実や当裁判所調査官宛の多数の書簡の内容から見ると、相手方としても、殊に長女友子に対しては父親としての愛情からできるだけの義務を履行しようと努力している様子が窺われ、一方的に妻子を捨てて顧ないような不誠実な態度とも思われない。

四  以上のような事情を綜合して考えると、婚姻破綻の原因は要するに夫婦間の性格の不一致と物事の考え方あるいは生活態度の相違ということになろうが、その中では申立人の前述のような性格あるいは気質上の欠点が顕著であり、それが夫婦の不和対立や様々な葛藤を生ぜしめたもので、結局、そのような性格に起因する上記のような申立人の言動、殊にサンフランシスコ渡航問題に関してとつた会社上司に対する無思慮な行動が相手方を○×退職、更に国外脱出にまで追いこんだものというべきであり、従つて婚姻破綻の責任は全部とまでは言い切れないにしても、少くともその大部分は申立人の側にあるといわなければならない。

第六本件各申立の当否

一  以上のように、当事者間の婚姻関係はすでに完全に破綻状態にあり、回復の可能性は絶無であつて、しかもその原因と責任の所在が上述のとおりであるとすれば、前述のカリフォルニア州民法における夫婦間の同居および扶養義務に照し、申立人は、相手方に対し、今もなお形式上は夫婦の関係にあるとはいえ、もはや同居を求める権利も、別居中の扶養を求める権利も有しないものと認むべきである。従つて、本件各申立のうち、相手方との同居請求の点および申立人自身の扶養料の支払を求める点はいずれも理由がなく、失当といわなければならない。

二  本件申立のうち婚姻費用分担請求については、その中に、申立人が相手方と別居後現実に養育してきた長女友子の分の生活費を含む趣旨と解せられるが、カリフォルニア州民法においては子の生活費を配偶者に対し婚姻費用分担の形で請求する規定は見あたらず、それは既述のような親の子に対する扶養義務の問題として規定されている。そして、前述の同法の関係条文および判例の趣旨に照し、相手方は長女友子の父として、少なくとも同女が一八歳に達するまではこれを扶養する義務があるものと認められる。もつとも、子の親に対する扶養請求であるとすれば、日本国内法ではあくまで子自身の名において請求すべきであり、子の母は、子の代理人としてならともかく、子の父に対して直接請求することはできないことになるが、カリフォルニア州民法第四七〇三条は、父母の一方がその子に対する扶養義務を故意に履行しないときは、父母の他方または訴訟のための後見人による子自身が扶養請求の訴訴を提起することができるものとしているので、申立人が本件において長女友子の生活費を相手方に対して請求している分は、同条の規定により母である申立人自身が扶養の請求をなすものと解することができる。

ところで、長女友子は昭和四八年三月二一日をもつて一八歳に達し、昭和四九年三月高校卒業後同年四月から○○女子大学に進学、昭和五三年三月に同大学を卒業し、その後前述のように就職しているので、一八に達したのちも、実際には大学卒業まで就職はしなかつたが、わが国の社会の実情からみて、一般に高校卒業程度の年令、学歴に達すれば、就職して相応の収入を得ることは可能であり、従つて、自活する能力を有するものと認めるのが相当である。そうすると友子についても、遅くとも高校を卒業をした昭和四九年三月には一八を越え、かつ自活能力を有していたものと認められるので、前述のカリフォルニア州民法第二四一条のchild には該当しなくなつたことになり、その時点で相手方の同女に対する扶養義務は終了したことになる。従つて、本件婚姻費用分担調停申立がなされた同年一一月一一日の時点ではすでに同女は相手方に対する扶養請求権を有しなかつたことになるので、同調停申立以降の扶養請求の点は失当といわなければならない。

また、同女が高校を卒業するまでの過去の扶養料を請求するものと解しても、既述のように相手方から昭和四九年九月までに申立人に送金された金員を、すべて長女友子の扶養義務の履行としての給付と見るならば、金額と期間の点において必ずしも十分なものとはいえないかもしれないが、これまでに述べてきたような一切の事情を考慮して、一応これをもつて相手方の長女友子に対する扶養義務は履行されてきたものと見ることが可能である。そうすると、過去の扶養料についてもすでに履行済ということになるので、更に請求する余地はないものといわなければならず、結局、いずれにしても申立人から相手方に対し長女友子の扶養料の支払を求める請求は失当といわなければならない。

三  以上のとおり、申立人の本件各申立はいずれも失当であり、理由がないものと認められるので、これを却下すべきである。

第七証拠関係

以上の理由の説明の中で摘示した事実は、本件審判事件および審判移行前の本件調停事件における申立人本人および参考人丸山信子各審問の結果、家庭裁判所調査官作成の調査報告書、東京地方裁判所昭和四三年(ワ)一〇四六九号事件の証人調書および本人調書各謄本、相手方本人からの書簡、その他当裁判所において収集、調査した一切の証拠資料ならびに関連事件である当裁判所昭和四一年(家イ)第一四四九号婚姻費用分担調停事件、昭和四四年(家)第五九八号婚姻費用分担審判事件、昭和四五年(家イ)第二一五九号夫婦同居協力扶助調停事件、昭和四八年(家イ)第一二六二号婚姻費用分担調停事件の各一件記録を綜合して認定したものである。

第八結語

以上の理由により、申立人の本件申立はすべて失当であるからこれを却下することとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 高橋史朗)

抗告理由書<省略>

〔参考〕 抗告審(大阪高 昭五四(ラ)九八号 昭五五・八・二八決定)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は、抗告人の負担とする。

理由

一 抗告人は、「原審判を取消し、本件を大阪家庭裁判所に差戻す。」なる裁判を求め、その理由として別紙のとおり主張している。

二 当裁判所も、抗告人の本件各申立はいずれも却下すべきものと判断するが、その理由は、次に付加するほかは、原審判理由説示のとおりであるから、これを引用する。(ただし、同審判八枚目裏一行目「3、次に」から同九枚目裏末行「となる。」まで、を削除。)

(一) 抗告人が本件申立を行うに至つた経緯、原因、右申立の目的等は原審判認定(同審判二枚目表一行目「1、申立人と」から同五枚目裏一二行目「る。」まで。)のとおりであるが、右認定に基づくと、抗告人の右申立の内婚姻費用分担は、別居中の妻である抗告人かその夫である相手方に対し生活費の支払いを求めるものというべく、右申立部分は、婚姻費用分担請求の形式を採つているものの、その実質は、夫に対する扶養の請求と解するのが相当である。

しからば、右申立関係の準拠法も、右観点から、これを決定するのを相当とするところ、夫婦間の扶養義務は、婚姻共同体それ自体の維持存続に必要不可欠のものというべきであり、したがつて、これは婚姻の一般的効力に関するものであるから、法例一四条によるべきである。したがつて、右準拠法は、右法条に基づき、抗告人の夫たる相手方の本国法、即ちカリフォルニア州法ということになる。

(二) (イ)なお、ここにいう婚姻の一般的効力とは、夫婦財産制の問題を除いた他の婚姻の効力、即ち、婚姻の純粋身分的効力のほかにそれに基因する若干の財産的効力を含めたもの、を指すと解するのが相当である。蓋し、元来婚姻の効力は、専ら夫婦財産制に関する財産的効力とそれ以外の効力とに区別されるし、我法例も、夫婦財産制に関する一五条と婚姻の効力に関する一四条とを区別して規定しているからである。

もとより、本件の如き夫婦間の扶養義務の問題においても、婚姻の財産的効力に関する面の存在を否定することはできない。しかし、夫婦間の扶養義務の前叙性質に鑑みるならば、夫婦間の扶養義務の問題になお婚姻の財産的効力に関する面が存在するということから直ちに、夫婦間の扶養義務の問題は、法例一五条の夫婦財産制に該当する、ということはできない。

(ロ)叙上の説示から、婚姻の一般的効力(夫婦間の扶養)の問題である本件において夫婦財産制の問題は生じない、というべきである。

右認定説示に反する抗告人の主張は、当裁判所の採るところでない。

(一) 本件婚姻費用分担請求の趣旨には、抗告人自身の生活費だけではなく、抗告人と同居し、同人が実際に監護養育して来た長女友子の生活費も含まれていると解されること、は原審判説示(同審判一〇枚目表一行目「本件婚姻」から同三行目「解される」まで。)のとおりである。

(二) しかして、抗告人の相手方に対する本件請求が実質的に夫婦間の扶養問題であり、したがつて、その準拠法は法例一四条により相手方の本国法であるカリフォルニヤ州法であること、は前叙説示のとおりである。

(三) 本件における右友子の生活費請求関係は、親子間の扶養として、親子間の法律関係の問題であり、抗告人の相手方に対する扶養問題と区別し、それ自体の準拠法を決定するのが相当である。蓋し、夫婦間の扶養の問題は、本来夫の妻に対する扶養あるいは妻の夫に対する扶養が考えられているのであつて、その間の未成熟子の扶養の問題は入つて来ないと解するのが相当だからである。

しからば、本件において、前叙友子の生活費請求関係の準拠法は、親子間の法律関係に関する法例二〇条により、右友子の父である相手方の本国法、即ち、カリフォルニヤ州民法ということになる。

右認定説示に反する抗告人の主張は、当裁判所の採るところでない。

3 抗告人は、抗告人と相手方との婚姻の主たる破綻原因は相手方による悪意の遺棄である旨主張する。

(一) しかして、抗告人の右主張にそう証拠として、原審における抗告人本人の審問の結果(昭和五一年九月一七日午後一時、昭和五三年一〇月一八日午前一〇時、の各期日)および抗告人の供述を録取した本人尋問調書(東京地方裁判所昭和四三年(ワ)第一〇四六九号事件)の各一部があるが、右各審問の結果および右各文書の各記載内容部分は、後示証拠と対比して、にわかに信用することができず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠がない。

(二) かえつて、抗告人と相手方の婚姻関係の経緯と実情、右婚姻関係破綻の原因と責任については、原審判認定説示(同審判二枚目表一行目「1、申立人と」から同六枚目裏九行目「る。」まで、同一四枚目裏九行目「1、前述の」から同一九枚目表末行「ならない。」まで。)のとおりであるから、原審判が右認定説示のため挙示した証拠(ただし、前示信用しない証拠部分を除く。)とともに、これを引用する。

右引用にかかる認定説示に照らしても、抗告人の右主張は、これを肯認することができない。

二 以上の次第で、原審判は正当であり、本件抗告は全て理由がない。

よつて、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

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